谷崎潤一郎『細雪』

 

細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)

 

 

四姉妹のお話と聞いていたけれど、三姉妹のお話かと思った。それぐらい長女とそれ以外の姉妹の関係がドライで、逆に言えば、下三姉妹の関係が強くてびっくりした。親が亡くなっていて長女が嫁いでいるから、長女(本家)VS次女・三女・四女(分家)という構図になりがちだった。

でも、直接会って話し合えば分かり合える描写もある。

幸子は、姉と向い合って座に就いた瞬間から、この数箇月来抱いていた淡い反感のようなものが次第に消えて行くのを覚えた。遠く離れて考えていた間こそ、快からぬ感情も湧いたけれども、こうして差向いになって見れば、姉はやっぱり昔の姉で、何処も変ってはいないのであった。

一緒に生活をしない、ただそれだけで、心の距離も遠くなるんだなと思った。ましてや昔は手紙か電話しか無いのだし。

 

あと私は圧倒的に雪子(三女)に感情移入した。30歳だけど電話もまとまに取れない雪子…!お見合いもそれが原因で駄目になったりする。とても良い。

と、何を云うのやら、雪子の云うことが聴き取りにくくてさっぱり分らない。それは電話が遠いのではなく、雪子の地声が小さいせいなので、彼女にすれば一生懸命咽頭を振り搾っているのだけれども、「果敢ない」と云う形容詞がよく当て嵌まる、細い弱々しい声であるから、電話だと実に明瞭を欠くのであった。

でも子供の世話が得意で、次女(幸子)の子供と仲良く、お母さん代わりになっている。

そして看病も得意。このお話では結構みんな病気にかかるのだけど、雪子は率先して寝ずに看病するし除菌消毒も完璧で女中さんをしのぐほど。

雪子はその大人しすぎる性格もあって、なかなか縁談が纏まらずに(周りが)苦労する。この時代、上流階級のお嬢様には縁談をして嫁ぐしか生きていく術はない。

雪子のような人はどうやって生きていけばいいのかなあ…。すべまよの冬子を重ねてしまった。自分も重ねてしまう。

 

そして四女、妙子…!妙子は性格的に"お嬢様"ではない。悪く言えば世間ずれしている。そのせいで本家からも、時には姉たちからも疎まれる。

時代が違ったら、と思ってしまった。きっと現代だったらたくさん恋をして、仕事をして、充実していただろうな。

女性が一人で自立したいと思うだけで「危険思想」とまで言われてしまう戦前の世の中が地獄過ぎた。

私は白蓮や晶子のような恋多き女性に憧れるけれど、彼女たちがそれを貫き通すには親や兄弟たち家族を犠牲にしなければならなかったんだなあと思うと、生きたいように生きることって本当に難しいなと思った。

 

中巻はまさかの洪水の描写が入ってびっくりした。ちょうど今年は災害が多かったから身に染みた。鴨長明方丈記思い出した。

 

そして朝ドラ『カーネーション』でも出てきた七・七禁令。「生活を脅かす戦争」の描写として秀逸。私が着物や記事の種類に詳しかったらもっと理解できたんだろうな。

夢二美術館で昔、『細雪』の着物の展示があったんだけど…なんで行く前に読まなかったかなー私!!!

歌舞伎の描写もたくさんあって楽しかった。六代目=菊五郎を覚えました。

 

谷崎の文章を読んで思ったのは、めちゃめちゃ描写するな!ということ。これは尾崎紅葉の『金色夜叉』読んでるときにも思った。

対立項があっても、両方の言い分について良心の呵責や葛藤まで包み隠さず書くこと。あるよねーそういうとき、とか、どうしようもなかったよねーとか、読者は自然と寄り添う気持ちになる。行間を読み取らせず全て書いちゃうところが私は好き。